"Fanny och Alexander" på Dramaten (『ファニーとアレクサンデル』@ドラマーテン)

もうあと少しで2016年が終わってしまいますね…。

来年の目標は本ブログをもっと、ずっと、頻繁に!更新することです!

 

さて、今月半ばの最終授業日にご褒美としてドラマーテンに『ファニーとアレクサンデル』を観に行きました。まだこけら落としから間がないので、まだまだ公演は続くのですが、クリスマスムードを楽しむ一環として。

ヨーテボリ留学時には、クリスマスイブ近辺に古い映画館でrisgrynsgröt(スウェーデンでクリスマスの頃食されるライスプディング?というのでしょうか、甘いお米のミルク粥です)付きで本作が上映されました。「なんと本日の上映は昔ながらのフィルムです!」と得意げな紹介のあと始まった上映は、中断するわ、順番が入れ代わるわ、上下逆さまになるわ、ハチャメチャなものでした(笑)。そして「えー、これがフィルムというやつです…。来年はデジタル導入を考慮します」のコメントで締めくくられました。

『ファニーとアレクサンデル』はもともと5回連続のTV作品なので、3時間程度の劇場版はかなり削られています。私は5時間バージョンの方に慣れているので、このとき久しぶりに短縮版を見て、「あのシーンもあのシーンも消えてる!なんてこった!」と愕然とした記憶があります。

 

さて、劇場版の方に移りましょう。本作にも実は個人的な思い出があり、今回の観劇で念願叶いました。

本作の舞台化は、ノルウェー(2009年)とデンマーク(2010・2011年)が先で、本国スウェーデンは遅れをとり、2012年にドラマーテンで初演を迎えました。演出はStefan Larsson(ステファン・ラーション)で、彼はデンマークのオーフス劇場にて同作を既に演出しており、2度目にして初めてストックホルムでの上演となりました。*1

この初演時の2012年2月に、偶然にも私は初めてスウェーデンの地に足を踏み入れたのです。短い観光旅行でしたが、ドラマーテンやヘドヴィグ・エレオノーラ教会、ウプサラ大聖堂、バリマンが幼少時をよく過ごした祖母の家があった建物など、ゆかりの地を巡礼しました。書いてて恥ずかしいほどオタク趣味ですみません…(笑)。

当時はまだスウェーデン語の勉強を始めたばかりだったので、スウェーデン語での3時間の芝居は厳しいかなと躊躇いながらもチケット情報を調べたところ、見事に売り切れで、いずれにせよ観ずじまいでした。

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↑そのときのポスターの写真。

 

ステファンはバリマンと大変縁の深い役者・演出家です。

初演の際の舞台裏をStig Björkman(スティーグ・ビョルクマン)がFanny, Alexander och jag『ファニーとアレクサンデルと私』というドキュメンタリー映画(サイト上で48時間レンタル可能)に仕上げているのですが、そこで彼はドラマーテンでの80年代は自分にとってバリマンに尽きる、とキャストに語っています。芝居の何たるかをバリマン演出作品への出演を通じて学んだ、いわば演劇学校のようなものだった、とのこと。

シラーの『メアリー・スチュアート』、シェイクスピア『リア王』、チェーホフ『かもめ』などでバリマンの演出術を目にしてきた彼は、1997年にLars Norén(ラーシュ・ノレーン)のRumäner『ルーマニア人たち』で自身も演出家としてデビュー。1998年以来ドラマーテンで活躍し、『ある結婚の風景』や『秋のソナタ』などのバリマン作品の演出も手掛けているそうです。*2

 

初演は演出のみだったようですが、今回はヴェルゲールス主教役で本人も出演していました。

オープニングは、幕が下りているところにアレクサンデルが袖から登場して劇中劇のシーンになりました。このアレクサンデルが役者は15歳だそうですが、結構ひょろっと背が高かったせいもあり、カンが悪い私、最初は誰かわかりませんでした…。

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↑パーティのシーン。

ヘレーナの自宅でのパーティの後のエークダール家の面々の様子は、回転する舞台でハイテンポで描かれます。上演時間は3時間なので映画版と同じくらいですが、結構TV版の方にしかないシーンを採用していたりして(ちなみに脚色もステファン)盛り沢山な印象。そのため、全体的にテンポが速く、あまり各シーンに焦点が当たりにくい感じがしました。

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↑オスカルの臨終は、映像版ではAllan Edwall(アッラン・エードヴァル)の名演が光る素晴らしいシーンなのですが("Evigheten, Emelie, evigheten..."「永遠だよ、エミリー、永遠…」)、あっさり終わってしまって残念。

ステファンが上のドキュメンタリーで「仕上がったものを見てみると、クローズアップがないのを残念に感じてしまう。舞台では不可能だが、映画版ではクローズアップが作品世界に深みを与えているので…」という旨、話しているのですが、まさしくその通りですね。ベルイマン・フェスティバルの『秋のソナタ』はこの障害をうまくクリアしましたが、バリマン作品におけるクローズアップの意味合いの大きさは、実際に舞台版を見てみたときの違和感で歴然とするのです。

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↑ね、アレクサンデル(右)がちょっと大人っぽすぎるでしょ。でもファニーも初演のときに比べると背が高めかも。

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↑かなりコミカルな部分を強調した演出だったので、オスカルが倒れる直前の「ハムレット」のリハーサルシーンは大爆笑の渦。直後に彼を襲う死との対比を強める為だったのかもしれませんが、結果として、上述の通り臨終シーンの印象が薄くなっただけだったような…。

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↑うーむ、15歳にしては大人びている子ですね…。やっぱり映画の印象が強すぎるからなかなか舞台自体を客観的に見るのが難しい。

ドキュメンタリーを観る限りでは、役者陣(初演キャストの大半が今回の再演にも参加しています)にも、映画のキャストのインパクトはちょっと厄介だったよう。イスマエル役とグスタフ・アードルフ役のふたりが、「僕の台詞は全然(ヤール・)クッレみたいに聞こえないけど、比べるのは役作りとして薄っぺらいと思う」、「私が突然初演を迎えた途端フィンランドのスウェーデン語(映画版のスティーナ・エークブラードはスウェーデン系フィンランド人)で話し始めたりしたらどうする?」などと話していました。

写真につけたコメントから薄々察して頂けるかとは思いますが、全体的な印象としてはそれほど感心しない舞台化だったなというのが正直なところ。

ただ、コミカルな部分を強調していたのは、この作品の「陽」の部分を分かりやすく伝えていてよかったと思います。ただ、その分「陰」の部分も分かりやすくなってしまったというか、役者に感情をストレートに出す芝居をさせ過ぎている感じがしたような…。全体的に感情の綾というものが見えないというか…。

うーむ、とはいえ、私の感想はどうしても映画との比較になってしまうので、なんともいえないところですね。

イスマエルの登場は「ちょっとハンニバル・レクター風で」と演出家と役者双方が話していて、それはなるほどな、と感じましたが、やっぱり映画版のあの何とも言えない雰囲気には遠く及ばず…。イスマエルというキャラクターはバリマン作品におけるジェンダーの曖昧さを考察する上で非常に意義深い存在で、私のお気に入りシーンの一つでもあるせいかもしれませんが。

とはいえ、長い舞台なので、これくらいあっさりしている方が観やすいのかもしれません。別にバリマンファンのための舞台化ではないですからね。

フェスティバルの頃からずっと公演しているDen Goda Viljan『愛の風景』はまだ観られていないので、年明けに行きたいと思います。

今回も写真はドラマーテンHPからの引用です。