Ensam

先日アップしたAgrellのEnsamを読了しました。

以下ネタバレを含むあらすじです↓


洋裁で生計を立てるトーラ(Thora)は未婚の母だが、18になった娘のイングヴァ(Yngva)が友人の医師サンデーン(Sandén)の妹の家に働きに出てから、孤独を感じながら日々を過ごしている。家にいるのは偏屈な家政婦ラスク夫人だけ。サンデーンはイングヴァのためにも世間体を考え、未亡人であると偽るようトーラに再三にわたり勧めてきたが、真実たることを重んじるトーラは頑なに受け入れない。

 

ある日、休暇に出してもらっていたはずのイングヴァが突然実家を訪ねてくる。滞在先で心躍る経験をしたようだが、彼女は帰って来た訳を言おうとしない。その翌日、アッラン(Allan)という若者がトーラの家を訪問するが、彼こそ休暇先で出会ったイングヴァの恋の相手だった。すぐに結婚の許しを求めるアッランに、初めは訝しげであったトーラだったが、二人のお互いへの想いが本物であることを悟り、二人の結婚を認める。しかし、イングヴァは婚外子である自分の出自をアッランに伝えていなかった。

 

出自ゆえに苦しい子供時代を送ったことを回顧し、母を咎めるものの、アッランに真実を伝える覚悟をするイングヴァ。意外にも事実を告げられたアッランは彼女を拒絶しなかった。問題はアッランの父エークショルド(Eksköld)の方であった。婚外子を嫁に迎えることを断固として拒む彼は、実は、トーラのかつての恋人、すなわちイングヴァの父親の従兄弟だったことが明らかになったことから、物語は転換を迎える。

 

エークショルドがイングヴァとアッランの結婚を認める条件として提示したのは、既に男やもめとなっている従兄弟と母のトーラが子どもたちど同時に結婚することであった。そうすればイングヴァは正式な夫婦の娘となり、倫理的問題は何もなくなると長年の友人であるサンデーンまで、その提案に喜びを隠さない。

 

イングヴァを独り産み、育ててきたこれまでの人生を否定することを迫られたトーラの選択する道とは…。

 

一応結末は伏せておきました。

台詞などは古さを感じるところは多いのですが、エゴイズムだと周囲に責められながらも自らの生き方・アイデンティティに誇りを持ち、慣習に抗うトーラの姿は、男には若気の至りで許される過ちが女にとっては一生を左右する恥の刻印になる当時(あるいは現代であっても)の社会の理不尽さに異を唱える意味合いで意義深かったのではないでしょうか。特に日本などは、まだまだシングルマザーにとっては生きにくい世の中なので、例えば『人形の家』と比べると、現代に通じるところが多いと言えるのではないでしょうか。

娘のイングヴァが母が未婚で自分を産んだことを恥じ、身分を偽ることを願っているところが、トーラを孤立無援にしてしまうところが悲しいところ。二人の女性の心理的葛藤をさらに深く描きこんでいけばより現代性が増す作品ではないかなと感じました。原題における公演では、演出家がそのあたりにどういう処理をしているのか興味深いところです。

旧式のスペルと、古い時代の語彙が多く、ちょっと読みにくいところもありましたが、短い作品なので読了にそれほど時間はかかりませんでした。

こういう全然知らない作家のことをふと知ることができるので、P1 Kultur/Kulturnyttは私にとってはとても楽しい番組です。